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新規事業の事業見える化コラム

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執筆者の写真高材研

企業内新規事業開発とスタートアップ企業の違い

一口に新規事業開発といっても、大きくふたつに分かれると思います。一つは企業内で新規事業開発を行う場合で、もうひとつは独立して行う場合、すなわちスタートアップ企業と呼ばれる場合です。かつてはベンチャーという言葉がよく使われました。


 社内ベンチャーとかベンチャー企業というのは和製英語であって、これをそのまま英語にしてもなんとなくは理解してもらえるとは思いますがへんな英語です。アメリカではベンチャービジネスという言葉も聞いたことがありますが、スタートアップという言い方が一般的です。スタートアップというのは開始したという意味なので、スタートアップ企業は新興企業という意味になります。一方でベンチャー企業とは何かというと、早稲田大学の松田教授は以下のように定義しています。


 「高い志と成功意欲の強いアントレプレナー(起業家)を中心とした、新規事業への挑戦を行う中小企業で、商品、サービス、あるいは経営システムにイノベーションに基づく新規性があり、さらに社会性、独立性、普遍性を持った企業」。


  こう見ると、スタートアップ企業=ベンチャー企業とは言えないようにも思いますが、細かいことは別にして、ここではスタートアップ企業=ベンチャー企業ということにします。

 

 それではここで、企業内新規事業開発とスタートアップ企業の違いについて考えてみましょう。

アルゴマーケティングソリューションズは、自分たちの経験から両者には大きく2つの違いがあると考えます。ひとつは、資金調達の点です。もうひとつはアントレプレナーという点です。

それぞれをもう少し掘り下げて考えてみます。


  まず資金調達面です。これは言わずともお分かりになると思いますが、企業内新規事業開発では事業責任者は基本的に資金調達の方策をする必要がありません。もちろんその企業の身の丈にあった投資や運転資金である必要がありますが、そうである限り企業全体からお金が捻出されます。だから、事業部長はその投資や事業運営にかかる費用が適切であるかどうかという点を全社に納得してもらえば、承認がおりて事業運営ができます。


  一方で、スタートアップ企業は、創業者が金が余って仕方がないという特異な例を除けば、どこからか資金を調達しなければなりません。かつてはその対象は銀行でした。しかし今は銀行からの資金調達すなわち間接金融より、投資家に投資をしてもらうという直接金融が主力です。間接金融の場合には基本的に融資になります。銀行は貸した金はきちんと返してもらわなければなりません。とりっぱぐれはできないのです。スタートアップ企業は担保もないし、計画どおり行くか不透明なところが多いので、銀行にとってはリスクの高い対象になります。貸せても最悪の場合でもなんとかなるという少額でしかありません(国の政策的な部分は除く)。そして100件の案件があったら100件成功しなければならないのです。


  直接金融とよばれる投資の方は、一般的にはファンドという形をとってそれをベンチャーキャピタルと呼ばれる会社が運用します。いろいろな考え方が存在しますが、基本的にはハイリスクハイリターンです。100社あったら2-3社の成功を見込むというイメージです。ハイリターンを狙いますから、逆に小規模では話になりません。変化の激しい現代において、業界ナンバーワンになるような事業を狙ってきます。スタートアップ企業はこのような考えの人たちにお金を出してもらおうとするのですから、相当魅力的なリターンを提示しないと資金が調達できないことになります。


 しかし、ディファクトスタンダードをとれるような事業がポンポンあるわけではありません。スタートアップ企業側は自分の対象市場がどんな感じか、その中でシェアをどのぐらいとれるのか、多少なりとも、あるいは多少どころではなくて大いに、膨らませて話をすることが多くなります。それはもうギャンブルというか信条に近いものです。でもそこにお金が出るのです。そういう意味で、アルゴマーケティングソリューションズは、企業内新規事業開発の方がより純粋な事業計画を策定することができると考えます。どういう市場でどういうポジションをとるのか、そのために何をするのかというところに集中すればよいのです。両者の違いは資金調達という現象にでますが、その裏にこのようなことがあると思います。


  二つ目のアントレプレナーについてです。上述した早稲田大学の松田教授の定義にもあるように、スタートアップ企業=ベンチャー企業にはアントレプレナーがいなければなりません。この人はどんな人かというと、「高い志と成功意欲の強い人」でさらに言えば強靭な精神力を持ってリスクを顧みず事業を行う人です。この人に魅力を感じてその会社には人が集まります。資金も集まります。一方で、企業内を見た場合どうでしょう。はっきり言ってそんな人いません。企業に属しているのは、安定した生活がしたいからです。リスクは避けたいし、そこで発生する責任を負って左遷されるなどというババは引きたくないのです。


  一般に企業内で新規事業が始まる場合には、経営企画部門などがこういう事業をやるべきという分析をしたり、あるいは経営者がこれをやろうと意思決定して始まります。「私これやりたいです」というボトムアップが認められて、ある程度のお金を使う新規事業になることはあまりありません(部門内の新商品開発レベルでは頻繁にみられますが)。


 ある新規事業をやることが決まってから、「誰がそれをやるか」という議論になります。「あいつにやらせてみよう」ということで白羽の矢が立つのはたいてい部長クラスです。この部長さんは今まである部門で成果を上げてきた人です。でもそろそろ後任にそれを譲ってしかるべきと言った感じの人が選ばれることが多いと思われます。この方は「なんで俺が??」という驚きとともに人事異動通知を受け取ります。


 このときのこの人の気持ちは、明らかに「高い志と成功意欲、強靭な精神力を持ってリスクを顧みず事業を行う」というものとはかけ離れています。企業内新規事業開発の始まりはこんな感じです。この部長さんがやるべきことはこの事業と心中する覚悟を決めて、家屋敷を抵当にいれて生活のすべてをなげうって事業運営に取り組むことではありません。


 それでは何をやるのか。それは、この事業を会社が決めたあるゴールに見事到達して、「成功」の烙印をもらい、次のポジションに無事移ることです。その際、昇進することが最も望まれます。これがこの部長さんのモチベーションです。スタートアップ企業のアントレプレナーとなんと違うことか。しかし、ここを知って意識することは、事業運営上、担当者にとってはとても重要になることもあります。(2020/2/7追記)

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