イノベーションの意味を知ろう(イノベーションズアイ記事)
中小企業のためのサイト「イノベーションズアイ」で連載中の「新規事業開発の勘所」の記事です。
【要約】シュンペーターがいうイノベーションは古い考え方でしょうか。私は決してそうは思いません。私が事業をやっていくうえで常に感じていること(身に染みて感じてきたこと)は、このような古典に一定の原理原則があるということです。ここにある本質をしっかり把握して、そこから時代の変化を見ている人の事業推進の考え方と、目新しさだけで事業推進しようとしている人の考え方は、根本的に違ってくると思います。
新規事業を展開しようと考えているとき、「イノベーション」という言葉をよく耳にしたり、意識したりするのではないでしょうか。この言葉を「イノベーションズアイ」のような固有名詞で使う場合は問題ないのですが、一般用語でカタカナ語で使う場合は要注意です。自分では正しく理解して使っているつもりであっても、受け手によって感じ方、理解していることが違う場合があるからです。
たとえば、もっと身近によく聞く言葉で「マーケティング」があります。マーケティングという言葉をどのように受け止めて(理解して)いるか、受け手によって違ってしまうことが多いため、自分で伝えたいと思う意味のとおりに、相手に伝えることが難しい場合があるのです。だからそうした心配がある場合は、できるだけ平易な日本語で表現するようにします。このことは当社の広報・PR支援業務のほうで、企業様のプレスリリース作成やウェブサイト、SNSに載せる文言を作成したりするときに注意する点でもあり、実は伝えたいことを正確に伝えるために、結構大事なポイントの一つとしています。
今回のテーマ「イノベーション」という言葉も、マーケティングと似た状況になりうることが想定されます。調べれば、イノベーションとは「改革」「革新」を意味する英語であることがすぐにわかります。そして、ビジネス全般でよく使われているのはご存知のとおりです。
普段イノベーションと聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。当社の若いスタッフも、セミナー等に参加してくださった経営者の方も、だいたい「技術革新」と回答しました。確かにそういうイメージがあるようにも思います。ちなみに英語辞書では「技術」とはありませんので、ここでイメージでなんとなく理解しているつもりになってしまっている状況がわかります。それはさておき、イノベーションとは何かついて、今回のコラムですべてを語ることはとてもできません。しかしながら、恐れ多くもさわりだけでも説明させていただくことで、本当に意味を理解してもらうきっかけになればと思います。それが事業をやっていくときの原動力の一部にもなると思うからです。
イノベーションという言葉をビジネスに使ったのは、シュンペーター(経済学者)であることも、ちょっと調べるとすぐに出てきます。シュンペーターはイノベーションは次の5つであると言っています。
・プロダクトイノベーション(新しい製品)
・プロセスイノベーション(新しい製造方法)
・マーケットイノベーション(新しい市場)
・サプライチェーンイノベーション(新しい流通)
・組織のイノベーション
製品は特に新しくない場合でも、例えば、今までその製品が存在していなかった国に輸出することは「イノベーション」なのです。新規事業開発においては、このようなことを意識する必要があります。つまり、今やろうとしている新しい事業はどこにイノベーションがあるのかを明確にするのです。
製品や技術が革新的であれば、それは事業化するにあたりとても有利だとは思いますが、もし革新性がなくてもどこかにイノベーションがあることが大事です。それが何であるかを、それを一緒に事業を立ち上げるメンバーとよく話し合い、意見を出し合うことをおすすめいたします。なんとなくのイメージで「イノベーション」と言っているのではなく、自分たちの事業にとってのイノベーションを具体的に探るのです。
そして、シュンペーターは、イノベーションの本質について2つの点を挙げています。
1つは「イノベーションとは非連続である」ということです。 つまり、過去と現在の延長線上にある未来はイノベーションではないのです。 過去と現在を結ぶところとは連続しないところにあるものがイノベーションということです。
販売方法を、お店で販売することから変えて、インターネット上で販売するというのは、イノベーションではありません。これまでに誰も思いつかないような売り方をし始めることが、イノベーションとなります。
それともう一つが「イノベーションとは創造的破壊を伴う」ということです。つまりいままで築き上げてきたものをぶち壊すものです。既存の秩序が変わるというともっとわかりやすくなるかもしれません。それが次に進むために「創造的」に行われるということです。ただ今までのものをぶち壊すだけだったら、単なる破壊者です。新規事業をやるからには、従来事業に対して非連続的で創造的破壊をするという観点からイノベーションを考えられると成功確率が高まります。
シュンペーターがどのような経歴でどのくらいの時間をかけ、どのような経験を経てこの考えに至ったかについては、このコラムでは説明しません。
もしかすると、「これは古い考えなのでは?」と思った方もいるかもしれません。確かに、今は時代が違います。しかし、私が事業をやっていくうえで常に感じていること(製造業の新規事業でも身に染みて感じてきたこと)は、このような古典に一定の原理原則があるということです。ここにある本質をしっかり把握して、そこから時代の変化を見ている人の事業推進の考え方と、目新しさだけで事業推進しようとしている人の考え方は、根本的に違ってくると思います。
イノベーションの代表的な事例として、アップルのMac、iPhoneなどがよく挙げられます。これらはアップル共同創設者のスティーブ・ジョブズが行ったイノベーションです。そして、シュンペーターの言うイノベーションに見事に合致しています。しかし、イノベーションだからといって、これを目指すというのは少し違います。
これらは過去のものだからです。私達が学ぶべきことは、過去の事象から本質を把握して未来を創ることです。スティーブ・ジョブズがどのような考え方で、何に苦しみ、何を楽しみ、どうやってこれを生み出したのか、その深い洞察から本質が探れます。特にITの分野ではあたらしいアイディアがイノベーションと混同されがちです。私たちはもっともっとイノベーションの本質を学習し、そこから本当の意味のイノベーションを自分の事業に取り入れるべきだと思います。
・・・とはいうものの、実際に新規事業をやっていこうとしたときに、自分たちだけの観点や見識だけでは幅が狭まってしまうこともあるのではないかと思います。このコラムを書いている当社自身も同様です。
そこで、共に悩む者が複数いれば、お互いの業界知識や発想からの知恵をもらって「知恵の交流」が生まれ、イノベーションを見つけ出すいとぐちになるかもしれないと考えています。新規事業実務研究会は新規事業に関わるひとすべての学びの場、知恵の交流の場として作りました。交流会は現在一時中断していますが、準備が整い次第開始いたします。ぜひ活用していただければと思います。
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