チェックゲートメソッド誕生の背景
やっとの思いで動き出したこの事業。あるとき、どういう基準なのか知らされないまま何かをチェックされて、あれはダメだ、これはダメだと判断されてしまう。このままでは事業を進められない……。
そのとき私はどうしたか、その後も降りかかる様々なことをどうやって打破したか。実体験をもとに、本当に役立つ、起業家的発想がなくても業務として遂行できる、新規事業運営のためのメソッドを開発しました。今回は、そのことについてお話しします。 ◇◇◇
自分たちが事業の将来を信じて、日々血と汗を流して、顧客に頭をさげてさげてさげまくって、工場の油臭い中、夏の暑さにも冬の寒さにも耐え、やっとの思いで動き出したこの事業。あるとき、いろいろな部署のよく知らない担当者から、どういう基準なのか知らされないまま何かをチェックされて、あれはダメだ、これはダメだと判断されてしまう。このままでは事業を進められない……。 監査を受けるときの心境に似ているかもしれません。しかし、監査の場合は、財務監査とか工場監査とか目的が明確ですし、それを通過するために準備をするのでかえってそれが事業を進化させることにもなります。また監査は比較的一般的なものとして、仕方ないこととして受け入れられますが、ステージゲート法(※)で事業性をあらゆる面からチェックし、場合によっては投資を止めると言われた日には、おだやかではありません。 私たちが2019年に提供開始した新規事業の事業開発理論「チェックゲート式メソッド」はステージゲート法がベースになっています。ステージゲート法は、もともとはアイディアを絞り込んでいくロジックです。もちろん、これにより成功確率は高くなりますし、事業への経営資源(ヒト、モノ、カネ、時間、情報など)の無駄な投資や投資の失敗を防ぐことができます。 しかし、私たちはこれを「事業を絞り込むロジック」ではなく、「事業を育てるロジック」として、企業内の新規事業開発やスタートアップ企業向けに最適化してきました。その背景には、私を含め、実際に企業内ベンチャーで、ステージゲート法での絞り込み(=どの時点で事業撤退するか見極めること)をされる側を経験した者が当社コンサルタントして活動しているからです。 私が担当した企業内ベンチャーは、事業の成長を望まれていないわけではなかったと思いますが、「撤退を見極める」ための評価軸ですべてが判断されるという状況下では、事業がうまくいっていても、つねにリスクを問われたり、最悪のシナリオを想定させられたりしてきました。その中で生き残るべく、常に説得力のある数字とシナリオを作りあげ、事業運営を担当してきました。そして、実際に数十件あった事業の中で、唯一生き残った事業となりました。 事業が生き残ったのは、ステージゲート法による管理のおかげでもあったといえますが、必ずしも、事業を担当している私たちのための手法ではなく、管理する側のものだということは常々感じていました。 ◇◇◇ 本来のステージゲート法とチェックゲートの違い
すでに本来のステージゲート法を学び、実務で活用している人は、企業の中で事業を実際にやっている人ではなく、事業をやっている組織を管理している人たちであることが多いと思います。部署でいえば、経営企画部門や財務部門、新事業管理部門といったところになるでしょうし、独立系ベンチャー企業の場合であればファンドを管理しているベンチャーキャピタルの人たちがそれにあたるでしょう。あるいは、M&Aの際に事業を買う側の意志決定組織が、かなりの初期段階での判断に使われるかもしれません。 冒頭のシーンを実際に経験した側としては、ステージゲート法なんて「くそくらえ」(このような表現で失礼いたします)と本気で思っていました。しかし、実はこのステージゲート法の細かな項目はよくできています。事業をやる上では真っ当で「ごもっとも」な内容なのです。そこで、逆手にとってこれまでの事例や経験から体系化し、「事業を育てる」武器にしたのがアルゴ流ステージゲート法でチェックゲート式メソッドです。 ◇◇◇ 誰でも使えるツールに
事業を運営するスピードは、日本が高度成長期に入るとき、つまり今問題になっている事業承継で今の経営者の方々が事業を始めたときと、今とでは全く違います。弱点は即対処しなければ、あっという間に競合やその他周辺の問題でやられてしまいかねません。弱点の把握がずれていたり、不明確であったりすると、その対処もずれるかあいまいになります。おおよそ対処したという程度では、もしかしたらあと一歩のところのほころびが致命的なものになるかもしれません。だから可能な限り早く的確に弱点を把握し、課題として明確にしておくこと、さらに適切な対処をすることが必要なのです。その際にこのチェックゲート式メソッドを使うと、明瞭かつコンパクトにそれが可能になります。 実際にはこういったことをやったことがない人にとっては、ちっともコンパクトではないと思うかもしれませんが、たとえば中期経営計画を策定するコンサルティングをしっかり受けるとなると、それだけで気の遠くなるような作業が待っていたりします。それに比べれば、チェックスゲート式は肝の部分を全部カバーしながら本質的なところを描き出しますので、とても効率的です。そしてこれはいろいろな場面、たとえばプロジェクトの推進などの各論でも使えるのです。事業全体を見渡して事業計画をしっかり作っていくプロセスはもちろんのこと、その事業計画の出発点になる売上計画を策定するベースとしての販売戦略構築の際にもこれを応用できます。
◇◇◇
チェックゲートの活用方法やディスカッションの機会を提供するために、当社では新規事業実務研究会(BSL)を立ち上げました(※2) 。大企業の新規事業だけでなく、もっと小さい事業単位での事業開発プロセスに、誰でも簡単にこれを応用できるようになってほしいと考えています。そうすることで、新規事業が日本でもっとたくさん生まれ、強い企業、息の長い企業に育っていく、新しい時代の到来に期待を寄せています。 ※1 1980年代にカナダのロバート・クーパー教授が開発。多くの製品や技術開発テーマを効率的に絞り込んでいく方法論といわれている。 ※2 新規事業実務講座【全5回】を順次開講します。