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新規事業の事業見える化コラム

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執筆者の写真高材研

事業部長に捧げるステージゲート法

企業内で新規事業の担当をしている事業部長が一番苦心するところは、社内承認、社内調整だと思います。スタートアップ企業の場合は、出資者(多くの場合はVC)への報告承認や会計事務所、弁護士、労基署、特許事務所、サプライヤー等との調整業務に追われるので結局は同じことです。

    

  ただ社内と社外で大きく違うのは、社外の場合には対価にお金を払う(もらう)ことで業務の取引がされるというドライな関係なのに対して、社内は金銭の受け渡しなく業務の調整をするので人間関係とか力関係とかそういうウエットな要素が大きいことでしょう。こちらの方がストレスフルであることは容易に想像できます。また組織に所属している人たちも、社内の他の組織と同じ賃金体系、人事評価基準で働いているので、仕事の内容についてはいきなり横並びの比較をしたりします。


  つまり、『本業の組織にいる人はこのぐらいやればこのぐらい評価されてどんどん出世していくのに、新規事業を“やらされている”私はとにかく何でも屋にならなければならずそのために成果が明確でないのにとても日々忙しくて、気が付いたら出世競争から取り残されている。もうこれ以上無理難題を言わないでほしい。できれば次の人事異動で他部署に異動したい。』といったような要望が出てきたりします。この状況の人のモチベーションを上げて成果に結びつけるマネジメントをしなければならない事業部長の心労は計り知れないものがあると思います。内心、『俺だって本音を言えば、あっちの部署に行って出世街道を歩きたいよ』と言いたいかもしれません。


  しかし、そうはいっても現実には新規事業を担当しているのです。最大のモチベーションは、とにかく新規事業を「成功させて」その実績をつかみ、それをもって他の部署にいる人たちとの出世競争に勝つことです。そのときは、単なる出世街道の勝者ということのみならず、事業運営のスキルが身についているし、社内だけ見てきた人には得られなかった外部との人脈もついてきます。だからその未来をめざして、今は新規事業の成功に集中しなければなりません。その際に、非常に強力な武器になるのが、このステージゲート法を自ら用いて作り上げた事業戦略なのです。


  事業戦略の立案方法には、さまざまな方法があります。どれを採用するかは、事業規模、組織体制、置かれている状況、求められている成果などによって異なりますが、ステージゲート法を用いることのメリットは、比較的コンパクトに本質的な戦略策定ができるということです。事業をとりまく要素はとても多岐にわたります。営業のこと、生産のこと、品質のこと、開発のこと、財務のこと。人事のこと、知財のこと、そして会社のトップ層への報告などです。事業部長はこれらをすべて取り仕切らなければなりません。一つ一つを微に入り細に入りやっていたのでは、とても回らないことになります。よく見られるのが事業部長の出身部門に偏ることです。たとえば営業畑一筋で歩いてこられた方は工場のことがよくわからないので、そこは盲目的に工場からあがってきたことを事業戦略に入れます。そうすると、とても細かい話がびっちり語られているのですが、投資対効果の全体像がどうにも見えないなどといったことがあり得ます。反対に、生産工場畑を一筋に歩いてきた人が事業部長になった場合には、お客様と直接接したことがないので、営業部門への指示がどうしてもブレて、最終的には精神論になってしまったりします。これでは組織がうまく動けないですね。しかし、事業部長は全方位万全の神様ではないのです。事業運営のトップになった場合には、とにかく全方位で全体像を把握しなければなりません。ステージゲート法はもともと事業運営をする組織が用いる方法論というよりは、事業運営を管理する側が用いる方法論です。

  

  次の図を見てください。

  事業運営を管理する側が用いる方法論だからこそ、その業界、その分野特有の細かい話ではなくて、「事業として」どうなのかという判断基準が重視されます。これを事業やる側が利用すればよいのです。そうすることによって、その業界、その分野の詳細説明ではなく、「事業」の全体像がつかめます。そこから課題が明確になり、対応策を講じていきます。この対応策を考えるにあたっては、業界を熟知し、この分野のことを一番知っている人たちがやるのがベストなのです。だから事業部長がステージゲート法に基づいて事業戦略をつくって、その結果としての事業計画ができあがることが最強なのです。ステージゲート法を用いた論理構成になっていれば、その分野や業界に精通していない人、そう、社長や取締役の方々、役人の方々にわかりやすく説明することができ、理解を促進して、やりたいことの承認を得ることが容易になります。そうなれば、会社終わってからなけなしの体力を使ってガード下で取締役の悪口を言う無駄な時間を、もっとポジティブな目的のために使うことができるようになるでしょう。

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